文芸社から2021年8月15日に出版された歴史小説である。作者は山口県に居住する後期高齢者、藤本明義氏である。高校で数学を教え続け、退職後も教鞭をとりながら、農業にも携わっていたが、執筆は初めてである。にもかかわらず、読む者を惹きつける文章力がある。戦国時代の兵農分離前の農村に暮らす庶民を鮮やかに表現している。まずは一読ください。多分楽しめると思います。
1938年に山口県で掘り出された大きな甕、そこに入っていた陶磁器や漆器、金工品、硯などの文具。それが中国明時代のものであることが判明したことから、この物語は作られた。大内氏が握っていた日明貿易との関係、掘り出された埋蔵物が仏教に関するものがほとんどであることから寺院で使われており、しかも当時としては高価なものばかりであったことが推測された。それがどうして土中に埋められたのか、様々な想像が好奇心に火をつけて、1冊の本として結実した。
1938年に山口県で掘り出された大きな甕、そこに入っていた陶磁器や漆器、金工品、硯などの文具。それが中国明時代のものであることが判明したことから、この物語は作られた。大内氏が握っていた日明貿易との関係、掘り出された埋蔵物が仏教に関するものがほとんどであることから寺院で使われており、しかも当時としては高価なものばかりであったことが推測された。それがどうして土中に埋められたのか、様々な想像が好奇心に火をつけて、1冊の本として結実した。
甕が埋められた時期を推測すると、戦国時代であり、その地を長らく治めていた大内氏の家老陶氏が、厳島の戦いで毛利元就に敗けたことにより、どんどん毛利氏に領土を侵食されて滅んだ頃に合致する。したがって、陶晴賢の家来筋であった主人公が、毛利氏に戦利品として取り上げられるのを嫌ったがゆえに埋めて隠したのではないかと想像される。まさしく戦国ロマンの織り成す世界を、現代人が関心を持つように描き出すことになった。
地方の小領主である地侍の日常生活をつづり、地侍と大名たちとの主従関係や地侍と村民の関係をあぶりだしている。地主として、村役人や宮司を輩出し、村民のリーダーとして警護衆を率い村の治安を守る。また、地元寺院の世話を引き受けてくれる住職を捜す役割も果たす。支配する大名からの出兵要請にも応えなければならない。中世のムラの様子を可能な限り浮き彫りにしながら、整合性のある推測を重ねていく物語の構成は、史実を忠実に再現しようという意図も見受けられ、面白いと感じると同時に感服した。
- カテゴリ:
- 歴史小説